2017年9月21日木曜日

立川こしらゴールドコースト落語夜会(2):「真打ですから!」

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 昨夜は楽しみにしていた「立川こしら落語夜会」へいった。
 朝方は16キロのランニング、夜は寄席と忙しい。
 場所はラブラドールの大樹。
 その一本裏側の道沿いは内海で朝、ラスト1kmで南の向かい風に悩まされた護岸歩道になる。
 ゴールドコーストの中心をサーファーズパラダイスとブロードビーチとするとその南側にあるのがロビーナ、北側はサウスポートになる。
 サウスポートもブロードウオーターパークランドの北端までで、その向こう、つまりロダー・クリークのかかる短い橋を越えるとそこはラブラドールで「イナカ」になる。
 大樹はそこにある。
 これより先に日本人の経営するお酒を飲める日本食レストランはない。
 日本食と銘打っていても中国人・韓国人の経営となる。
 言い換えると大樹はゴールドコーストの北の外れで精一杯頑張っている日本食レストランということになる。

大樹の駐車場は狭い。
 我々のようなイナカ住民が駐車場に車を止めてはこれから大勢来る人の迷惑になると思い、内海近くの道路わきに止めて歩いていく。
 6時開場で少し早めについたが大樹の前には受付を待って並んでいる。
 その間から灰色のジャンパー姿の冴えない男が出てきた。


● 右側のジャンパー姿が”こしら” 周りは全く気が付いていない

 「出迎えいただき、ありがとうございます」
とつい挨拶してしまった。
 「ええ、受付はあちらです」
とまあ、こんな感じであいさつをして、二言三言言葉を交わす。
 カミさん曰く
 「あの人誰、知り合い?」
 「そう、今日も会っていたよ、パソコンの中で」
 「???」
 「今日の主役の”こしら”だ」
 「!!!」
 ありゃ、確かに気が付かないよな!
 ジャンパーというのは日本ではポピラーだが、ここではほとんど着ない。
 それもグレーという色合い。
 これだとほとんど目立たない。
 つまり目立たない人になれる。
 頭を空っぽにして目だってなんぼ、を競いあっているのがゴールドコーストである。
 ここに灰色のジャンパーでは忍者みたいなものになる。
 何しろ和服で際立つのが落語家。
 それが忍者になればもう沈んで誰の目にも触れなくなる。
 スーと無視される。
 実際、店の前で待っていた人との誰も、この冴えない男が”こしら”とは気が付かなかったのだ。
 ところがこのなんの変哲もない冴えない男が演壇に上がると、マシンガーZみたいにガラリと変身するから面白い。
 ちなみに”こしら”と呼び捨てにしているが、本当は”こしら師匠”と言わないといけない。
 何しろ本人は「真打ですから!」をひどく強調している。
 「師匠」をどう呼ぶかというと”こしら”説では「マスター」だそうである。
 今日のお客さんの1/3ははじめて落語を聴く人だ。
 マスターが「初めて生で落語を聞く人」と言って手を上げさせた結果なのでこれは確実。
 とすると「しんうちってなんだ?」ということになる。
 「ふたつめ」の上だから「みつめ」だろう、と思う人はまったくいないと思うが。
 「ふたつめ」を知っている人も少ないから「マスター」の方がいいかもしれない。
 「弟子がとれる、のが真打だ」とマスター”こしら”は言っていたが。 

 さて大樹に入ってみる。
 「え!」
 ”こしら”は本当にマスターに変名したらしい。
 「立川コーラ」である。
 ダイエットコーラが好きで、作家の山崎直子は「山崎ナオコーラ」に名前を変えた、という話もある。
  落語家がコーラを好きというのは別に悪いとはいわないが、でもチグハグが目立つ。
  コーラをカタカナで書かずに「立川こーら」としているのもかわいいのだが。
 なにか「快楽亭ぶらっく」みたいだ。



  テーブルは取り払われ、右手に演壇がもうけられ、左手が客席になる。
 客層だがこれがびっくり。
 四十数名が定員ということだが、男性は7,8人。
 あとは女性で圧倒的である。
 浴衣姿の方もおられる。



 男性のうちどうも2名は関係者のようで、ということはほんの数名しかいない。
 年齢層はというと、落語というとどうしても60代過ぎのおじいちゃんおばあちゃんを想像してしまうが、まったくそうではない。
 前回載せた動画は京都の大学でのセッションだったようで、今ではどの大学にも落研はある。
 落語は若い人のトレンドではあるが、今日の夜会には若い女性は少ない。
 つい探してしまうが、数えるほど。
 つまり、男性と若い女性は少ないのである。
 来にくい、ということもあるのだろうが、大半は中年の女性の方。
 30代から、40代というところになる。
 おそらく確かだろうと思うが、この観客のなかでの最長齢はというと、私ではないかと思う。
 というのは私の年齢に合うような人は誰もいないのである。
 年齢的にはタモリと同じである。
 つまり、この年代に入ってくるとほとんど皆、病気時の対応をおもんばかってオーストラリアを去り日本へ帰ってしまうのである。
 よって落語に楽しみを見出すような老齢層がいない、あるいは希薄なのではなかろうか。
 昔シルバーコロンビア計画があって、リタイヤのあとで過ごす場所としてトップに挙げられたところである。
 ところが「老人まで輸出するのか!」というオーストラリア人からの非難が大きくなった。
 その結果、この計画はアッサリと取り消されてしまった。
 その後はバブルの崩壊とともに徐々に円安ドル高が進行して、とてもリタイヤ後に住めるところではなくなってしまったのである。
 よって働き盛りの30代から40代の層がぶ厚くなっているのだと思える。
 ならばその年代の男性層があってもいいのいではないだろうか思うのだが。
 帰るところのない私のような人間は、たまにやってくる生の落語を喜々として聴きにいくことにヒマつぶしを見出すことになるようである。 

 

 さて飲み物券を受け付けで渡されるので、白ワインをもらって喉を潤す。
 6時半開演である。
 さて「まくら」である。
 初めは誰でもオチを知っている小話からだが、そのオチを「膝を叩いたら、声を出して言ってください」とマスターはお客さんに要望する。
 「隣に囲いができたよ」
 膝をポンと叩く。
 客が合唱する。
 「ヘーイ」
 「カッコイイ」
 オチが2つ出てきた。
 さて、こしらマスター曰く、
 「32歳で答えが分かれるようです!」
 
 次はこれ。
 「台所がね?」
 「勝手にしなさい」
 「キッチンとせえ!」
 これもオチが2つ。
 マスターは「勝手」を説明するのだが、ということは「勝手」を知らない人が大半ということになる。
 52歳あたりがこの答えの分かれ目と思っているのでしょうか。
 これは膝を叩いての観客の答えではない。
 マスターの話術のまとめである。

 三番目は完全な落語仕様にまでした「サギの仇返し」と言ったところの小話。
 このあたりまではお客を落語に引き付けるダジャレ風。

 さて、まくらである。
 何が出てくるか。
 今回のオーストラリア・ツアーで主にシドニーで経験したあれこれを即興アドリブでまくらにしている。
 マイクの話、かんかん陽射しの場所で小一時間公演することになった話、着替える楽屋がなくウワーという話などいろいろ。
 スゴイ!
 単純にいうとオーストラリア人の属性みたいなものを話題に載せると同時に、オージー化した日本人をもマナイタに載せている。
 これがなんとも面白い。
 普通に述べれば普通のことを、いとおかしい話に作り変えていく。
 脚本力の強さであろう。
 以前に村上春樹がシドニーオリンピックに来て、そのときの印象をエッセーで「シドニー」という本につづっている。
(蛇足で書くと私には村上春樹の小説はさっぱりわからのだが、エッセイは面白い)


それ以来のオーストラリア人の民族性の面白さを日本語で味わった。
 このまくらにあまりに吸引力があったせいか、帰ってきてからこのとき本番で”こしら”は何を演じたのだろうか、しばらく思い出せなかった。
 記憶をまさぐってやっとみつけた。
 まくらが長く、本番は短めであった。
 その落語、聴くのは初めてである。
 ヤクザの親分の壺振りをまねた、滑稽さを演じたものである。
 全部の落語のネタを知っているわけではないが、こんな題もあったのかと思ったほどである。
 
 中休みに入る。
 この間に色紙にサインをもらい、写真を撮る。
 食事の時間でもある。
 当初は15分くらいであったが、時間が足りなくなり30分に延長となる。
 食事はお寿司で巻物が主体である。
 かんぴょう巻きがあった。
 スシトレインには納豆巻きはあるがかんぴょう巻きはない。
 鳥カツやエビ揚げもあった。
 立ち食いのカナッペ程度だろうと期待していなかっただけにこれはおいしかった。
 大樹様々である。
 日本酒を1本買う。



● 立川こしら

 さて後半に入る。
 まくらは、今度はクイーンズランドに入ってからの話で、ブリスベンでのスポンサー回りで和服に着替えさせられたところからはじまって、ゴールドコーストの「銭湯八」でデカイ男にお尻を触られて「ジョーク!」させられたこと、「冷蔵庫のもの勝手に飲んでいいですよ」と言われるお世話になっている家の方の娘がこしらを見て和服を着たくなって、着替えたあと「写真を撮って」と小間使いに使われたこと、大樹の場所がわからず車内でナビゲーターさせられ「左に曲がるなら早く言えよ」と言われたが「前から言ってただろう!」と思ったことなど、気ままにふるまう在住日本人の有り様を克明に三枚に下している。

● 銭湯八

 まあ、住んでいるところのことでもあり、マスターの言うことに「そう、そうだよな」などと納得してしまう自分が少し情けなくなるが。
 どうも日本人はオーストラリアにくるとタガが緩んだようにリラックスしすぎてしまい、緊張感を失って生きるようになるようである。
 傍目を意識することなく、我は我なりに特化してしまうらしい。
 それでも生きていかれるところがここのいいところではあるが。
 そのまま墓場まで行けばいいのだが、病気が怖くてついには日本に帰ってしまうことになるらしい。
 その一人に私も入っているわけであるが、墓場はゴールドコーストか日本か、と?

 そこで後半の演題は「死神」となるわけである。
 これは古典だが、オチがいろいろあるらしい。
 噺家が任意にオチを作り変えてもいい稀有なネタと聞いている。
 死神のしぐさがいい。
 これを演じるこしらマスターの顔がすごい。
 何時もにたにた笑っている顔からすさまじい迫力の形相に変わる。
 おっそろしい、と思う。

 てな具合で昨夜を過ごしたわけである。
 終了したのは9時ごろ。
 このあと師匠を囲んでの懇親会があるようなのだが、場違いの老人が加わると座が白けるのでその辺は空気を読んで帰ってきた。
 
 さて用意してきた色紙にサインをもらったのだが。
 これがなんと書いてあるのかサッパリわからない。
 サインだから名前なのだが、分かったのはおそらく左下の小さな字が「こ」だろうということだけ。
 ということは上のお饅頭みたいのが「立川」で、右の蛇のクネクネみたいのが「しら」になるのだが、やはりわからん!
 ウーン、芸能関係のサインはもともとよくわからないいい加減というのが定説だが。
 でも「神田紫」は普通の読める文字だった。



 このサインは失敗であった。
 老人にとってはなんといっても読めないと!

 落語会の写真や動画は FaceBook  に載るとのことである。
 私は仲良しクラブはやっていないので、Googleの検索にひっかからないと見ることはできない、ということになっている。
 ところでこのブログの頭の動画はなんと書き始めてたった2時間でyoutubeに載った。
 まだ<<編集中>>であったのだが。
 というのも文章を書くというのは結構時間がかかるものなのである。
 動画はムービーメーカーで継ぎ足して一本にまとめただけで、そのまま載せるから時間はかからない。
 文章の方はアアでもない、コウでもないと考えているうちに時間が過ぎ、文章が出来上がっていないのに動画の方はyoutubeの検索対象に載ってしまったというわけである。
 キーワードは「立川こしらゴールドコースト」である。
 それもトップテンに入っているのである。
 このブログはタイトルの「南の島の」からにしても、ジョギングがメイン内容からして地味で、他者の目を大きくは意識していないものである。
 まあ読んでもらえるかもしれないときどき日記程度のものである。
 
 それがすぐにyoutubeに載るとは、つまり
 ”立川こしら”がよほどマイナーなのか
ということになってしまうのだが。
 師匠もがんばらないとね。
 マスターいわく、シドニーもブリスベンもそこそこだが
 「ゴールドコーストにはがんばらない人しかいない」
 名言かも!
 
 後ろの方で関係者の方が動画をジーとカメラを回していたので、もしかしたらyoutubeにも載るかもしれない。
 昨日の余韻を再び楽しめることができるかもしれない。
 期待していよう、期待はしていないが
 なんといたって、頑張らない人しかいないのだから。
 期待しようがない。


● 手拭を買ったのだが「こしら × 温泉」これ何?


***  南の島の ***


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